札幌の時計台のそばにカクテルバー ハラダ という店があります。
移転前のススキノにあった時代から、20年近く通っています。
長年、札幌グランドホテルのチーフバーテンダーとして活躍された原田好位さんがホテルを退職後に、息子の光正さんと始められたお店です。
ホテル時代のお客さんが独立した原田さんを慕って集まる「大人の社交場」。そして、光正さん世代が集まる「若者のたまり場」。
お客さんの絶妙なミックス感が、今も好きです。
私の親友は20年前に「お前らみたいな若造が来る店ではない」と、他のお客さんに怒られたとか…(笑いながらだったらしいけど)
私は、光正さんと同じ年ということもあって、好位さんを「お父さん」と呼んで慕っていました。
「いつかお父さんに認められる一人前の大人になろう」と思いました。
独身の頃の恋の相談
税理士試験と仕事の両立でつらかったこと
職場の後輩の育成に悩んだこと
税理士試験に合格し、国家公務員を辞めること
母の死がきっかけで税理士として開業することになったこと
開業後の初めてのお客様との契約
営者の永遠のテーマである資金繰りの悩み
すべて、お父さんに受け止めてもらいました。
お父さんが引退することになり、昨日がラストday。親友とお店に行きました。
たくさんのお花が届けられ、最後の一杯を飲みに来られる方がひっきりなしにいらっしゃる。
みんなのリクエストは「マスターにお任せします」。
私もお任せしました。
最後に作ってもらったカクテル、おいしかった。
「板倉君、これからどんどん経営は良くなっていくだろうけど、大変な時に家族に助けてもらったこと。これは忘れちゃダメだよ。そして、いい時も悪いときもやってくるだろうけど、続けることが大切だよ。応援しているからね」
感謝を伝え帰ろうとした私に、お父さんが声をかけてくれました。
ありがとうございます。大切にその言葉を胸に刻みます。
カクテルバー ハラダはこれからも息子である光正さんが続けていきます。
でも、昨日は特別な夜でした。
人生の偉大な先輩が自らの意思でシェイカーを置いた夜です。
「次の店、行かずに帰ろうか」
「そうだね」
「じゃ、ここで」
私も引退する時にはお父さんのようにカッコよく決めたいなぁと、地下鉄東西線に揺られながら考えた夜でした。